映画『BIUTIFUL(ビューティフル)』醜さと美しさ 僕たちが生きる世界と人間の営みをありのままに切り取った美しい映画

余命宣告を受けた癌患者の生き様を描いた作品は数あれど、僕が涙を流したのはこの作品がはじめてだった。

これほどまでに繊細で、生々しい人間の営みを、生きている人々の姿をときに醜く、ときに美しく描いた作品を僕は知らない。

 

『BIUTIFUL(ビューティフル)』は、『バベル』や『21グラム』で知られているアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の作品だ。

イニャリトゥ監督の名を聞くと、『バベル』を思い出す人もいるかもしれない。

カンヌ国際映画祭で『バベル』が監督賞を受賞し、これに出演していた日本の女優である菊地凛子もアカデミー賞で助演女優賞を受賞したこともあってか、

当時ニュースになり、話題作という感じで映画館へ足を運ぶ人も多かったようだ。

しかし、日本人には刺激が強すぎたのだろう。国内でこの作品が評価されることはなかった。

つまらない、といわれて久しいイニャリトゥ作品だが…

だが、そんな苦い記憶のある人にこそ見てほしいのが、今回紹介する『BIUTIFUL(ビューティフル)』だ。

「貧しさ」というのが他人事ではなくなってきた昨今、現実のリアルを直視することで、報われる心もあるかもしれないからだ。

僕の目にはこの物語が、「希望」に映った。

それは張りぼてなどではない、

真っ暗な闇の中に差し込みはじめた、ひとすじの「希望」だ。

予告

あらすじ

スペインの裏社会で生計を立てるウスバル(ハビエル・バルデム)は、あらゆる闇取引に手を染めながらも、愛する2人の子どもと情緒不安定の妻を支えて暮らしていた。ある日、自分が末期がんであることを知ったウスバルは、やがて訪れる死の恐怖と闘いながらも、家族との愛を取り戻すために新たな決断を下すのだが……。

抽象的ネタバレ考察(感想)

舞台はスペイン・バルセロナ。バルセロナと聞くと、我々は華やかなイメージを思い浮かべるかもしれない。

それは観光地としてのイメージや、強いサッカーチームのイメージが強いのもあるだろう。

 

だが、スペインには数多くの移民や不法な出稼ぎ労働者が暮らす地域が存在するという。

当然彼らは貧しい。その日の糊口を凌ぐことで生活を成り立たせている。

貧しいのは本土に住む人間とて同じだ。

この映画が公開された翌年の2012年の指標では、スペインの失業率は25%を超え、若者に至っては50%を超えていたという。

「盗みや騙しはいけません。」そんな道徳で諭せるほど、物事はそう単純ではない。

すべてはただ生きていくため。

この映画の主人公、ウスバルもまた生きるために手を汚している

癌患者映画特有の「空気を読む」だけの作品ではない

僕はこの作品でイニャリトゥ監督を知った。

この作品の美しさに触れて、『21グラム』『アモーレスペロス』『バベル』といった作品を立て続けに、貪るように見た。

監督から作品を辿る、という体験は僕にとってはじめてのことだった。

イニャリトゥ監督の新作が上映されると知れば、『バードマン』『レヴェナント』と公開初日に映画館へと足を運んだ。

しかしそのどれもが、僕が期待していたようなものではなかった。この作品とは、ずいぶん毛色が違うのだ。

もちろん『BIUTIFUL(ビューティフル)』の監督、という視点で作品を見れば、

根底に漂うものはたしかに同質のものを感じる。

だが、『BIUTIFUL(ビューティフル)』にはあった、仄めかすような「救い」がないのだ。

生々しさだけが強烈に残り、不条理小説を読んだ後のような、やるせない気持ちにさせられることが多かった。消化不良気味。

 

同じような作品を二度も作る必要はない。

孤高のアーティストに見られるこうした矜持が、この監督にもあるのかもしれない。

もし僕が、イニャリトゥ作品を『BIUTIFUL(ビューティフル)』以外の作品から見ていたとしたら、

この監督のことをここまで好きにはならなかっただろうし、作品をすべて見ることは、なかったかもしれない。

彼はこの作品を、自分の父に捧ぐと公言している。

それは、彼自身の生い立ちから生まれたものであることを物語っている。

 

映画の内容について、あえて多くは語るまい。

みなさんそれぞれの感性で、目と耳を研ぎ澄まして見てほしい。

 

監督 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

 

この作品を端的に表現している監督の言葉を引用して、終わりの言葉としたい。

何が起きているのか意識しない限り、何も理解できない。

注意深く、物事を見つめなければ、気づかずに終わる。

多くの可能性が見過ごされているのは、
誰も見ようとしないからだ。

シュレーディンガーが言ったようにー

目に見えるもので、運命が決まる。

私たちのものの見方によって、生と死は決定づけられるのだ。

引用元:DVD特典メイキング映像より イニャリトゥ監督の言葉