『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』タイトルに騙されるな!!書店員のノンフィクション私小説、経験と成長の感動サクセスストーリー

帯がドギツイピンク色だし、タイトルの「出会い系」という言葉からエロを期待して読むと軽く裏切られるのでご注意を。

内容としては、元ヴィレッジヴァンガードの書店員(店長)だった花田菜々子氏が、悶々とする日々のなか、その経歴や圧倒的読書量を活かして、某出会い系サイトで出会った人たちに「その人に合いそうなおすすめ本の紹介をしよう」と思い立ち、その日々が綴られていくというもの。

 

本書が発売されて間もない頃、「お、おもしろそう。いつか読みたいな~」と思ってはいたが、まだ読んでいる最中の本がいくつかあったのでひとまずスルー。

しかし、このあいだチラッと立ち読みしてみたら内容と文体に一気に引き込まれ、思わず購入。

「これは、ただの体験談じゃなさそうだ」

その期待を裏切ることなく、二日で一気に読み終えた。

 

おわかりだと思うが、世の中の書店員の多くが、これほどたくさんの本を読んでいるとは限らない。

彼女の場合は子供の頃から根っからの本好きで、書店員という仕事をする前から多くの、そして幅広いジャンルの本を読み漁っていたようだ。

その脳内にある膨大な読書ストックのなかから、出会い系で出会うさまざまなタイプの人に適した一冊を考え抜いておすすめする。

花田菜々子氏だからこそ、こうして一冊の本になることが実現したといえる。

 

本書に登場したおすすめ本のなかから、自分も気になったやつをさっそく書店で探したが、在庫がなかった。(まさかこの本の影響?)

 

そんなふうに、興味深い本のタイトルを知ることができるのもそうだけど、この本の良い点はそれだけにとどまらない。

私小説でありながら、筆者が確実に一歩一歩成長し、殻を破って羽ばたいていく姿は「本当にノンフィクションなの?」と目を疑いたくなるほど。

一人の人間の物語を一緒に追体験することで、なにかを始めようと思うのに一歩が踏み出せなかった読者も勇気づけられるような、そんな力を持っている本だと思う。

 

そして、最近僕が注目しているキーワード、「コミュニティ」が語られている本でもある。

現代という時間を生きるすべての人にとって、その「自分の時間」を無駄にしないための方法だ。

 

なんとなくだけど、最近の日本はぎすぎすしすぎているように思う。

それはまあ無理からぬ話で、不況だけじゃなく、政治もそうだし、不正とか差別とか今まで見て見ぬフリできていたいろいろな問題を直視させられる機会が増えてきた。

にもかかわらず、生活の大半を過ごす社会という場で個人の意見(マスコミの受け売りではなく)が聞かれることは稀だし、社内で展開される話題のほとんどは会社の不平や愚痴といったものばかり。

このことは去年ふと、思ったのだけど。普通に考えて、おかしくないか?と。

人生の大半を捧げる場で、自分の思ったことが言えないなんて。

自分の意見やプライベートは口にしない。それは普通のこと。…普通のこと?いやいや待てよ、と。そんなのおかしいじゃん。

 

ただ、これまで日本という社会がおそらくそういう傾向にあったのだろう。

多様性多様性と言いながら、日本社会の体質そのものが、まったく認める気がないではないか。

だからこそ、自分が自然体でいられる場所本音を言っても許される場所というのを自ら見つけて、積極的に参加していくしかないのだ。

そんなこともこの本から学び取ることができた。(結局彼女は、働く場所さえも巻き込みながらそこからも価値を見出すという荒業をやってのけるが心臓強い!笑)

 

 

そしてもうひとつ、印象に残っている部分があるので紹介したい。

曲がりなりにも、このブログは映画・読書を人におすすめする体で運営している。

そんな僕が、いや、僕に限らず何かをおすすめするすべての人にとって大切な考え方が、第7章のどこかに記載されている。(探してね)

広告に節操がないのは昔からだが、なにか震災以後の宣伝一般は、ますますその傾向が強くなっているように思う。

もちろん個人がアフィリエイトでお金を稼げるようになったことも無関係ではないだろう。

 

いつかこのブログにも書きたいと思っていたが、検索上位に登場するwebの文章のほとんどはSEOを重視するあまり、ときに人間の言葉に温度が感じられないときがある。

発信者の言葉が受信者によって変えられているともいえる。

 

このブログもいずれ収益化を目指してはいるが、それを目的にはしたくない。稼ぐことをメインにはしたくない。

Aという言葉よりBという言葉を使ったほうがSEO的に良しとされていても、Bという言葉のほうが自分の感覚や文章の流れに適していると思えばそちらを使う。

(もちろんまったくキーワードを入れなければかすりもしなくなるので、それは情報を欲している人に届かず本末転倒になるので加減は大切だが)

発信したいのは僕が感じた「生の体験」なのだ。

それが誰かの心に触れられたらうれしいし、触れられなくても自分の言葉を形にできただけで満足だ。

 

本の内容とは随分逸れてしまったが、この「何かをおすすめするすべての人にとって大切な考え方」は、これからの時代に向けてとても大切なことだと思うので、この部分(前後)だけでも読む価値はある。

 

 

ちなみにエロ皆無といったが、「出会い系にいるこういう男は嫌われんだよ」というのを知りたい出会い系狼男子諸君は参考になるかもしれない。(知ったところで変えようがないが)

 


 

ただ、ただ、ごく個人的に、なんだけど、不服がある。

それは、本を紹介される人物のほとんど、いや、九割九分九厘が、「デキる人」なのである。

そりぁーそうか。だって、なんだかんだ言って、ここに登場する人たちは、

人生という舞台の上で悲喜交交、紆余曲折ありつつも生を謳歌している人たちだもの。

 

舞台に上がる方法がわからず、人生がまだ始まってもいないし、始めたところでもう彼らと肩を並べることはできない人生の敗残者である僕のような人間には、そんな彼らが眩しすぎた。眩しすぎて、別の意味で涙がでた。

 

もちろん、本書にも残念な人たちは登場する。

思慮が浅い人たちというか、そこはノンフィクションである以上、現実に存在しているので仕方のないことだ。

だが、残念な層にも読書好きはいたのではないか、という期待である。

 

本書は面白いほど二種類の人種に分かれている。

デキる人間と、そうでない人間のふたつだ。

そして筆者は、デキる人間からはその人の人生観を観察し、汲み取り、渾身のおすすめの本を紹介し、自分の経験へと培っていく。

だがそうでない人間からは、そのプロセスがまるでない。(決して筆者が選んだ、というわけではない。結果的に。)

序盤ではいわゆるハズレを引いて、それでも真剣に選んだ本をおすすめしている。(しかし相手がちゃんと読んでいない説)

もちろん、ただの残念層からなにかを汲み取れなどというつもりはない。クソなものはクソだ。

ただ、「デキる人間」以外の人からも、一人くらいは人生観を取り上げ、本をおすすめして、何かを吸収してほしかった。

本書には70人全員が出てくるわけではないので、実際にはわからない。もしかするとそういう人にも出会っておすすめしていたのかもしれない。

だが、登場しなかったということは、やはり彼女の中で印象には残らなかったのだろう。

 

あ、わかった。おれが言ってるのは。フリーター。フリーターだ。フリーターが一人も出てこない。

みんなバリバリ仕事してる人だ。

ようするに、「僕みたいな人間がいない」というのが悲しかったのだ。

自分に似た境遇の人間が登場して、おすすめされるのをどこかで期待していたのだ。腑に落ちた。

 

読後感が爽やかなはずなのに、どこか引っかかってた気持ちの正体はこれだったようだ。ちーん

でもまあ、ふつうに読んで損はないです。おすすめです。