えらいてんちょう『しょぼい起業で生きていく』起業に興味のなかった私が読んで目から鱗の連続 マインドセットに刺激をもたらした今年の一冊

最近私の住んでいる街では、小さな書店がぽつぽつと開業しているのをよく見かける。

本読みの私としては、この流れは非常に嬉しいことだ。

小さな書店に並べられた本は、店主さんや店員さんの好みが反映される自由度が増すため、売れ線ばかりを強調する大型書店とはまた違った魅力がある。

お店それぞれにオリジナリティーがあって、棚を見て回るだけでも発見があって面白い。

もちろん、本好きの中にも色々な人がいるし、好みの問題もあるので、必ずしも自分に合う良書が置いてあると断言はできないが、大型書店にはない魅力があるのは事実だろう。

 

こんな話をしたのには2つの理由がある。

ひとつは、ブックスビバーグという去年開業したばかりのお店でこの本を購入したことだ。

マンションの一室にお店を構えているこちらの店舗は、おそらくこの書籍に書いてあることを実践しているのだろう。(お店のツイッターでも「影響を少なからず受けた本」と紹介してあった)

振り返れば、ちらほらとそんな仕掛けが見受けられた。

謎の店主さんも気さくな人で、こちらの質問にも快く答えてくれた。

 

そして、2つ目。2つ目はたったいま触れたが、マンションの一室に店を構えている=住居と店が一体になっている、ということだ。

それは今回紹介するこちらの書籍、『しょぼい起業で生きていく』に書いてあるノウハウのひとつだ。

単純な話、基本、自宅というのは住んでいるだけで出費こそあれ、儲けが発生することはない

店を開業するにあたりそれを逆手にとって、店に住んでしまえというわけだ。

であれば、仮に売り上げがなくても、もともと家なんてものは儲けがあるわけではないので、二重の家賃に苦しめられる心配はない。

要するに、無駄な固定費を減らしていけということが書かれている。

たしかに、読了から少し時間が経って冷静に考えてみると、女性にはちょっと厳しい話のような気もする。(防犯面など)

しかしそもそも、そういう発想自体がなかった、というのはあなたも同じではないだろうか。

もちろん、お店を営業してはいけないという規約がある住まいで開業することはできないが、とくに明記されていなければ、家をお店にしてはいけない、なんて規則はない。(業務形態にもよるが)

これは私が世間を知らなさすぎるだけだろうか?

 

こちらの本にはそうした固定費などを出来る限り減らしていく方法が「生活(コスト)の資本化」「資産の資本化」という言葉で紹介されている。

これはなにも、起業を考えている人だけが使えるノウハウではないと思った。

本を読み終えても、「起業しよう!」とはならなかったけど、普段の生活や今後の暮らし(生き方の質)の向上にもつながっていく考え方、ノウハウだと思った。

 

私がこの本に衝撃を受けたのは、なにもこの一冊を読んだから、というわけではない。

先月紹介した『パン屋のお金とカジノのお金はどう違う?』や、まだ紹介できていないが、『ルポ 雇用なしで生きる――スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』という本などに共通する、新しい時代における働き方、雇用、とりわけ労働について、延いては「人間が生存していく」ということはどういうことなのか、根源から問い直すという姿勢が『しょぼい起業で生きていく』にも共通していたからだ。

 

当初の予定では、読了後すぐにメルカリに出品するつもりでいた。

だが、読んでいるうちに手元に置いて繰り返し読みたい本へと昇格していた。

圧倒的付箋の数。

一度読んだだけでは頭に残らない部分も多かったので、何度も咀嚼して読む必要がある。

 

本当にしょぼくても起業を考えている人にとっては、少し物足りなさがあるのも否めないが、日本人の労働に対する固定観念、価値観にヒビを入れたいと考えている人には適切な本であろう。

 

なぜ、起業に興味のない私がこの本を購入したのか、疑問に思われている読者もおられるだろう。

そのことについては、自分もよく考えてみた。

実は、私としては珍しく、中身を立ち読みもせず、amazonレビューも読まず、ただ表紙買いしたのだ。

というのも、ひとつは、同じニオイがしたから、というのはある。

これはいわゆる直感、第六感が働いたのであろう。

そしてもう少し、その直感の正体を冷静に分析してみると、「商売っ気のなさ」に惹かれたのかもしれないということが次第にわかってきた。

 

もう最近の新刊書籍というのは、いかにして人目を引くかの競争であり、これ見よがしに外聞もへったくれもない誇大広告が過ぎるだろう、というタイトルを平気でつけている。

私はそれに辟易しているのだ。そのほとんどは、どうせ中身がないくせに、タイトルだけが万能であるかのように謳っている。

売りたいのもわかる、売れなきゃいけないのもわかる。

だが、人間はそんな哀しい生き物であっていいのだろうか。

そんな疑問が脳裏をよぎるのだ。

 

この書籍を執筆したえらてんこと「えらいてんちょう」氏は、しょぼい企業が当たって、それなりの財産を築いた。

だが、この本は、はっきりいって一発山を当てるための本ではない。

それは筆者本人も述べている。

ただ、食うに困らず、ストレスなく生きたい。

そんな小さな小さな願いさえ、叶いづらい殺伐とした世の中から、すこし距離を置くための手段のひとつとして、しょぼい企業が提案されている。

もう、生き方はひとつではないのだ。

人間が多様であり歪であり、それでもなんとか世の中が回っているみたいに、どんな生き方・働き方を選ぶ人間がいても、等しく権利と価値は与えられて然るべきなのだ。

そんなことを思うた。