映画『怪物はささやく』まったく新しい少年と怪物のファンタジー 哲学的な物語の中に隠されたスクリプト

『怪物はささやく』、良質な映画だった。映画が良すぎて、原作のほうも買って読んだけど、映画のほうが個人的には好き。

この映画をひとことで表すとしたら、古典的な「少年と怪物のファンタジー映画」という体裁をとっていながら、

その中身はまさしく現代にふさわしい、心の病の治療法が語られている映画だと思った。

予告

あらすじ

さびれた教会の裏通りにある一軒家。主人公のコナー少年は、病気がちな母との二人暮らし。

母は病気のために寝室にこもっていることが多く、炊事、洗濯はもっぱらコナー少年の日課。

そんなコナー少年は、空想に耽ることが大好きな男の子(おそらく中学生)。学校の成績は申し分なく、絵を描くのが好きで、暇さえあればノートに絵を描いている。

しかし、世の中にはそうした特異な存在、周りとは少し違った存在に対して、よく思わない連中がいる。それが、孤独な人間であればなおのこと。

コナー少年は日々、悪童らの暴力に耐えていた。

 

ある晩、いつものようにペンを走らせ、夢中で絵を描いていたコナー少年は、自分の名前を呼ぶ声に気が付く。

その声の主は、窓から見える、樹齢300年を超える、巨大なイチイの木の怪物だった。

「これから3つの物語を話す。そして、4つ目はお前の真実の物語を話せ!」

突然の出来事とわけのわからない要求に、コナー少年は戸惑いつつも、1つ目の物語は語られる。

抽象的ネタバレ考察(感想)

見終わったあとに、この暗示的な物語は何かに似てる、どこかでおれは知ってるはず、形容できるはず、と思っていて、

でもそれが言葉として出てこなかったんだけど、一晩寝て思い出した。

この映画はスピリチュアルだ、と。

 

3つの物語はとても哲学的で、受け取りかた次第で、どれも嫌悪感を抱かせてしまいかねないお話だった。

けどそれがおそらく色んな、スピリチュアルな分野や脳科学の分野でわかってきたこと、

かつて天才と呼ばれていた人物が語っていた真理であり、人間にとっての不変の事実であることは、素直に頷けた。というか、裏付けられた。

 

自分の心の叫びや破壊衝動を、社会一般の倫理観にあてはめて、それがいけないことであると、間違っているような気にさせられ、

見て見ぬフリをしてきたことへの自覚がある僕としては、見ていて心地よく、背中をさすってくれているような温かさを覚えた

 

印象的だったのは、怪物に語った4つ目の物語である真実は、彼がずっとため込んでいた、ある意味残酷な心の叫びで、ここで一瞬、眉をひそめた人もいると思う。

母親の病気が治癒が難しい病(余命いくばくという)を題材に扱っているために、下手をすると最後のコナー少年の独白は、一部の人たちの反感をかうかもしれない。それこそ、「泣ける映画」を期待して劇場に足を運んだ人は、裏切られたような気になるかもしれない。

でもここが、この映画の神髄だと思った。

人間がときとして残酷なのは、あの震災を機に、アンテナを張って生きていれば、思い知らされることだと思う。

心の奥の奥の声は正直で、ときとして残酷で、

倫理観というものさしではかろうとすると、それはたちまち多くの人間に怪訝な顔をされることになる。

だけど、自分という個人の幸せの単位で物事を見るなら、その残酷さを自ら知り、受け入れてあげることは、ものすごく大切で、

そのステップが変容を促したり、たとえ変わらなくても、それさえできれば幸せに近づける、といっても言い過ぎじゃない気がしてる。

 

ただ、おばあちゃんの孫に対する態度が、最初から酷だったのは気になったというか。たしかにコナー少年の態度は多少生意気ではあるけど、彼の境遇を考えると、すこしは優しく接してあげてもいいのでは?と思った。

それか、彼女自身もそんな境遇で生きてきた身であり、そんなことは不幸でもなんでもなく、それが人生だと、そしてそれが彼女の真実。という見方もあるか。

…とここまで考えて思ったんだけど、これってまさに、現実の家族間の人間関係そのものだな、と思った。

映画では明かされないけど、おばあちゃんにだって、過去があって、おばあちゃんもまた、理不尽さのなかで堪えながら、自分を律し続け、親から課せられ、また自分に課したルールの中で、必死にもがき、生き抜いてきたのかもしれない。

タブーを見つめたからこその力強い愛

さらにこの映画の優しい、愛のある映画として完成されているなと思ったのは、物語の最後で「いかないで」と泣きながら母親に素直に抱き着いたコナー少年のシーンだ。

「終わらせてしまいたい」

「いかないで」

そのどちらもが真実で、誰にも咎めることなんかできない自然な気持ちなんだよね。

 

さらにマニアックなネタバレをすると、、

怪物は「」です。笑

大嶋先生の本が好きな方ならこの映画はとても楽しめると思うので、ぜひ見てください!

 

現時点で映画館で一度、DVDで一度視聴しましたが、二度とも泣きました。笑

J.A.バヨナ、おそるべし。こんなアプローチの映画を作ってしまったことに脱帽です。