映画『日日是好日(にちにちこれこうじつ)』諸行無常の響きあり、どこにでもいる等身大の主人公が私たちに教えてくれたたった一つの大切なこと

予告動画

あらすじ

たちまち過ぎていく大学生活、二十歳の典子(黒木華)は自分が「本当にやりたいこと」を見つけられずにいた。ある日、タダモノではないと噂の“武田のおばさん”(樹木希林)の正体が「お茶」の先生だったと聞かされる。そこで「お茶」を習ってはどうかと勧める母に気のない返事をしていた典子だが、その話を聞いてすっかり乗り気になったいとこの美智子(多部未華子)に誘われるまま、なんとなく茶道教室へ通い始めることに。そこで二人を待ち受けていたのは、今まで見たことも聞いたこともない、おかしな「決まりごと」だらけの世界だった――。

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抽象的ネタバレ考察(感想)

思わずため息が漏れる出来栄えだった。

 

物語に登場する人間はたいてい、「私たち」ではないことが多い。

主人公になにか特別な能力が備わっていたり、逆になにもないという突き抜けた劣等感を個性に変える人間などが登場し、

圧倒的大多数である「私たち」からは、およそ遠い存在として描かれる。

 

また、どんなに設定を私たちの平凡さに近づけようとしても、どこかで「違い」が生じてしまう。

それは単なる日常のやりとりでのシーンかもしれないし、なにげない所作かもしれないが、

綻びはそんな些細なシーンに立ち現れてしまうものだ。

 

そして仮に、その平凡さを淡々と描けたとしても、いまの時代、おそらく誰も見ない。

需要は圧倒的に少ないだろう。

「見る者に委ねる作品」というのは、世間様にはあまりウケがよくないのだ。

 

『日日是好日』は原作がエッセイである。

だからこそ、ストーリーや登場人物の、ごくごく自然な平凡さが(そしてその裏にある、私たちが普段言語化できないでいる憂いや不安も)描かれている。(もちろん書き手の冷静な観察眼と文字起こしが優れているであろう点は言うまでもないが)

大学時代の宙ぶらりんな生活への漠然とした不安や、就職難、恋愛の裏切り、震災。

これは、私たちと同じ時間を生きている、生身の人間の話なのだと実感する。

 

そしてまたそれを、映画という媒体に落とし込めているのが凄い。凄すぎる。(監督の手腕)

原作は読んだことがないけど、原作者が伝えたかったことと同質の想いが込められていたのではないだろうか。

映画のなかでは、一見すると見落としてしまう日常のありふれた風景を切り取り、自然な色を付けていく。

 


 

…いまから話すのは、鑑賞者への余計なお世話だ、ということは百も承知で声を大にして言いたいのだが、

映画を見たときだけそういう気持ちに浸って、映画館を出たら、また日常の殺伐とした空気の中に仏頂面で帰っていかないでほしい、と。

日常を切り離さず、その感性のまま、日常を見渡してほしい、と強く思うのだ。

 

樹木希林さんの遺作のひとつであるということもあり、

劇場内ではすすり泣く声がたくさん聞こえてきたのだが、

なにも死すら特別なことではないんだよ、と教えてくれる。

 

日本人の多くは感動屋のくせに、日常でそれをすることを許さない人間が多いように思う。

「なにやってるの?あのひと」「きもちわるい」「有名人でもないくせに」

これはすべて僕の妄想だが、昔、僕がすこし人と違う行動をとろうとするたびに聞こえてきた幻聴だ。

だが、人一倍空気を読むことに長けた人種であるみなさんなら、これらの内なる批判に僅かでも共感していただけるのではないだろうか。

 

仕事場だってそうだ。素の自分を出さずに、どこかでセーブしている自分がいる。

なぜ一本道の、地続きではダメなのだろうか。

内と外。本音と建て前。

分け隔てることが当然のような社会。

もちろん線引きは必要だが、デリカシーのなさを話題にしているわけではない。

利害関係だけで生きようとするから、そんなことになってしまうのではないだろうか。

人間がいてはじめて、社会、経済があるのに、

社会、経済を回すために我々は生きているみたいだ。

現に息苦しさを覚えている人はたくさんいるのがその証拠ではないだろうか。

 

映画を映画として切り離すのではなく、日常をあらたな視点から眺める。その習慣を身につけるために、この映画を役立ててほしいと純粋に思った。

 

日々を生きることとは、何も特別じゃない特別なことなんだと、あらためて気付かせてくれた。

 

監督 大森立嗣

 

希林さんの「12年後っていうと…あたしは100歳だねえ…」という台詞が、

素直に笑うことのできないブラックジョークとなってしまったことに、少し涙がこぼれそうになった。

彼女のことは詳しくないけど、勝手に「おばあちゃんといったらあの人」という虚像のせいで、

ちょっと親しかった親戚の人を亡くしたみたいな心持ちがして、ちょっぴり寂しい。

ですが、希林さんの演技を見ていると、「死」というフェーズに移行しただけ、というような気もしてくるので不思議だ。笑