【311の美談の裏に隠された真実】東日本大震災が浮き彫りにした男尊女卑社会を描くノンフィクション小説

垣谷美雨の作風

今回紹介する本は垣谷美雨さんの『女たちの避難所』だ。

垣谷美雨さんといえば、その作風は女性向けに書かれた時事ネタが多く、『結婚相手は抽選で』『嫁をやめる日』『夫の墓には入りません』などなど。

どこかキャッチーなタイトルの、クスッと笑えて、少し背筋がヒヤッとするような作品が多い。

なので割りとエンタメ小説的なイメージがあったのだけど、今回紹介するこちらの『女たちの避難所』は、その中では異色と言える。

というのも、題材があの東日本大震災で、舞台は宮城県の町。

地震発生から津波の到来、避難所に移動してから避難所生活の一部始終が、世代の異なる三人の女性の視点で描かれている。

町名こそ架空で、登場人物も実在はしないが、この小説には「あの日の震災のリアル」が描かれている。

怒りで読む手が止まらない

文庫版あとがきにもあるように、筆者は311の裏側で起きていた様々な問題を、多くの文献を読み漁り、実際に被災した友人の話を聞き、現場に足を運んだという。

 

文庫本を買った当時に付いていた帯には、「怒りで読む手が止まらない」と書いてあったのだが、まさしくその通りで、「これでもかこれでもか」と、女性に対する圧力の数々を目の当たりにすることになる。

男性である私でさえ、怒りとやるせなさを覚えたのだから、女性が読むともっとだと思う。

倫理の仮面

未曾有の事態に陥った時、人はその本性を現す。

この小説をひとことで表すなら、この言葉に尽きるかもしれない。

 

日頃、一見平穏に見える現在の日本社会だが、それは安全や安心によってもたらされた、仮初の秩序であって、ひとたび想定外の、不慮の出来事に遭遇した時、倫理観や理性といったものは儚くも崩れ去り、それはただの仮面であったことが判明する。

 

当時のニュースや、現在語り草となっているのは、震災の美談に溢れている。

「パニックにはならなかった」

「盗みが起きなかった」

「順番を守っていた」

これに世界が称賛していると、何度も何度も繰り返し報道がなされた。

だが、この世界はすべてにおいて二面性がある。

美談の裏側、仮面の内側に隠されているのは、もっと深い闇なのだ。

そんなの田舎の話でしょ

男尊女卑社会、村社会、と言われて久しいこの日本で、都市化が進んだ社会ではそれを目の当たりにする機会は少なくなったのかもしれない。

「東京では、そんなことないよ」と。

だが本当にそうだろうか。

それは、この小説を読んでから考えてみるのも悪くない。

こんな人におすすめ

この災害大国日本で、いつ当事者になるかわからない私たち。

いざ当事者になったとき、こんな悲惨な出来事を体験して、心を痛めてしまわないように。

女性であれば自分の身は自分で、そして同じ女性同士で尊厳を守りあうためにも。

また男性はそうした窮地に陥っている女性の手助けが咄嗟にできるように。

日頃から備え、考えておく、想定しておくことが大事だと思った。

身近な大切な人を、心身ともに守るためにも。

自分の仮面の内側を、少しでも気高く保つためにも。

万人に必読の書だ。

重たい小説なの?

垣谷美雨さんの特徴として、読後感は決して悪くないのでそれが唯一の救いになっている。

読むのを躊躇っている方は、その点は心配しなくてよいです。