垣谷美雨『老後の資金がありません』災難のオンパレード!?隣の芝生は青いもの 老後の不安に効く頓服薬小説

垣谷美雨という作家をご存知だろうか。

女性なら一度、手に取って読んでほしい作家の一人だ。

「婚活・就活・老後・毒親・雇用・健康問題」などなど、現代を生きる人々にとってはあまり考えたくない、けれども考えずにはいられない、

女性が気になる時事ネタをテーマにした作品を数多く発表している。

 

『結婚相手は抽選で』『あなたの人生、片づけます』『嫁をやめる日』

どのタイトルも思わずクスッと笑ってしまうネーミングで、チャーミングなお人柄が窺える。

 

 

僕は女性作家にわりと偏見がある。(それは男性作家に対してもある)

別にそれは好みの問題であるし、非難しようとは思わないが、

パンクロッカーであり小説家でもある町田康さんの言葉を借りるなら、

「作家は基本、『オレがオレが!!』ですからね」

ということ、つまり、作家の主張のさじ加減、ナルシスト度合い、は一人の読者として、本を手に取るときの基準になっている。

 

 

「オレがオレが!!」が色濃く出る作家さんというのは、読んでいて疲れる。飽きる。そもそも読了が難しい。

しかしそれが良い具合にユーモアや客観性がブレンドされていれば、飽きることなく読み進めることができるが、

あまりにご都合主義、人間への洞察力の浅さ、などが目立つくせに己への陶酔だけ一丁前の作品を読むと「時間を返してほしい」と、

しぼんだなすびのような顔で、ひとりごちてしまう。

 

それが女性作家の場合、「ツンとしている」か「ズーンとしている」か、あるいは「ふわふわしている」かという、

わりとベタベタ個性派の方が多い気がするのである。(完全に主観です)

 

まあ、それが作家の個性と呼べるものであり、その違いがあるからこそ、

これだけ多くの本が世に出回っており、好き嫌いが別れ、表現の自由が許されているのだが。

 

とまあ垣谷美雨氏に話を戻すと、

彼女の場合、そうした「オレがオレが!!」度が、一定にコントロールされているのだ。

リアリティのあるテーマと、これまたリアリティのある登場人物たちに、一気に引き込まれていく。

エンタメ性があって面白く読めるのに、ひとつひとつの現代社会の問題について、真面目に考えるきっかけにもなるからとても好きだ。

冒頭で女性におすすめしたいと言ったが、もちろん男性にもおすすめできる。

普段、女性の多くが考えていることの一端を垣間見れるので、昨今のハラスメントの基準がわからない中年男性は、これを読んで勉強してください。

 

 

残念ながら、この『老後の資金がありません』を読んだからといって、なにか具体的な知恵がつくわけではない。

物語終盤は、トントン拍子で事態がそれなりに好転していくので、やはり創作物だなあ、という感は否めない。

それでも、もやもやの根本原因は、ほかにあるんじゃないのか?という気付きを与えてくれるし、

「老後に備えて、なにかしなくちゃ」という、強迫観念から解放される術を示唆してくれているように思う。